八百長逮捕から本の出版まで『西川昌希』についての全て

 

競艇(ボートレース)では八百長なんてものはもってのほかのご法度。バレたら当然パクられるし懲役刑になる可能性だってある。だけど、2019年に「西川昌希」が起こした事件によって、競艇は八百長に対してかなり敏感になった。決して逮捕されたから終わり、ではない。

この記事では、西川昌希がどういった選手だったのか、そしてどういった経緯で事件を起こしたのか、そしてその真相など、徹底的に解説していく。

 

西川昌希について

◆プロフィール

出身地 岡山県
年月日 1990年2月26日
年齢 29歳
身長 166cm
体重 52kg
血液型 B型
級別(前期) A2級
級別(後期) A1級
通算優勝 12回
登録期 104期
支部 三重支部

西川昌希がデビューしたのは、2009年5月の津競艇場。

デビューしてから約6年後の2015年3月には、尼崎競艇場で開催された「SGボートレースクラシック(鳳凰賞競走)」でSG初出場するほど、選手としてはそれなりの腕をもった選手。

その勢いのまま2015年12月には、平和島競艇場で開催された「トーキョー・ベイ・カップ(周年記念)G1初優勝戦」で2位になるなど今後が期待できる選手だった。

年間獲得賞金について

西川昌希元選手が10年間で獲得した賞金は「約1億7500万円」と言われていて、単純計算だと、年間で約1750万円が稼いでいたことになる。

ただ、デビューから数年は賞金額が大きいレースにも出られないし、実際は初優勝した2014年頃から稼いでたことを考えると、年間賞金はもう少し上だろう。

最近の数字だと、2018年に西川昌希元選手が稼いだ賞金が「23,694,000円」。年間で2000万円って言ったら、普通のサラリーマンからしたら考えられないような金額。しかしそれでもあんな犯罪に手を染めてしまうというのを考えると、年間2000万円っていうのは全選手の獲得賞金ランキングでは300位前後だし、本人的には金銭感覚はもうおかしくなってたのだろう。

突然の引退

12回の優勝経験とか、年間獲得賞金の上昇とか、競艇選手としては成長を続けていた選手だったが、2019年9月30日に突然引退届を提出して引退。

競艇選手は60歳を超えても現役バリバリで活動している選手もいる中、突然の早い引退に当初は健康状態が悪くて引退したんだって言われていた。しかし結局その後に「逮捕された」ことで本当の引退理由が分かることとなる。

 

八百長レースが発覚し逮捕

西川昌希の逮捕の原因となった八百長レースは、2019年7月2日に滋賀県営びわこボートレース場にて開催された「第6回G3イースタンヤング第7レース」。

2号艇でレースに臨んだ西川昌希は、舟券における圏内(3着以内)に入らないようにコントロールする必要があった。しかし、1マークを回った時点で西川昌希選手は3着と圏内に入っていた。最終的に圏外になれば良かった西川昌希だったが、ここで思いもよらぬ事態になる。それが4号艇の「転覆」だ。

ここで重要なのは、競艇における転覆事故はレース優先よりも「人命優先」という点。転覆した状態で先端が鋭い艇を走らせることは非常に危ない行為であり、たとえレース中であっても転覆した艇の外側をゆっくりと回る行為が求められる。そのため、転覆事故が起こった時点で「レースは一旦中止」となる。少なくともここで順位が変わることはなく、この時も誰もが西川昌希は3着のままゴールするものだと思った。

しかし、3番手で走っていた西川昌希は、ここで大きく減速して4番手となった。本来であれば「1→5→2」という順位でゴールするはずだったレースが、結果的に「1→5→3」という順位でレースは終わった。事故がない通常のレースであればこの結果でも特に疑問を抱くことはなかっただろう。それほどまでに、転覆事故が起こった後に順位が変わることは異例だ。

オッズにも問題があった

競艇の性質上、1号艇が最も勝ちやすくオッズも低くなりやすい。その1号艇の最大のライバルであり、最も勝てる可能性が高いのが2号艇(もちろん選手にもよる)。

そのため、1→2や2→1といった舟券はオッズも低くなりがち。しかし、この試合で2号艇である西川昌希は「勝つ気がない」レースとなっているため、2号艇の投票は紙くずとなって配当も高まるようになる。

このレースに出場した6号艇選手は実力的に勝てる見込みが低く(6号艇の時点で厳しい)、西川昌希が勝つ気がないため購入すべき舟券は「1を頭に3、4、5のボックス」で問題なかった。そういった状況を分かっている西川昌希は、レース前夜に共犯となる親戚に連絡を入れ、上記の舟券を購入するように頼んだと思われる。その結果、上記の舟券は以下のようなオッズになった。

【1→3→4】14.3倍
【1→3→5】28.4倍
【1→4→3】12.1倍
【1→4→5】22.3倍
【1→5→3】50.1倍(的中)
【1→5→4】55.6倍

どれが当たっても充分な配当になる。結果的に50.1倍という高配当に当選した親戚から西川昌希は300万円ほど受け取ったと言われている。買った金額の中から300万円を渡したと考えれば、この【1→5→3】という舟券に10万円近くの金額を入れていたと思われる。しかし、4号艇の転覆後の不自然な動きがファンに見つかり、それによって八百長発覚から逮捕に繋がったことを考えると、西川昌希が思い描いていた思惑とは真反対になったということだろう。

スマホの持ち込みがあった

競艇に限らず競馬などの公営ギャンブルにおいては当たり前の話だが、ボートレーサーはレース前日に宿舎入りして「スマホ含む通信機器」を預けなければいけない。これは外部と連絡を取って不正を働かせない目的があり、通常であれば持ち込むことはあり得ない。しかし、西川昌希は検査時にスマホを隠し持っていたと言われており、昔からこのようなことを繰り返していた「常習犯」だった可能性が高い。

他の選手にも大きく影響

これが明らかになったことで、協会としては今後も同じようなことが起きないよう、前にも増して疑心になり、当然過度な対策もとるようになる。実際、スマホの持ち込みに関しても『今後は「金属探知機」や「私物検査」を重点的に行うことで対策していきたい』と発言された。

ただ、こういった検査体制の強化は当然のことであり、仕方のないことだが、八百長に対し敏感になりすぎたことで被害を被った選手もいる。例を挙げるなら藤原菜月の1年間停止処分だ。これは競艇ファンの間でも色々と物議を醸した事例。誰が見ても明らかに八百長ではないレースにもかかわらず、協会は八百長の可能性があるとして減速をした藤原菜月に厳しいペナルティを課した。近年の日本のこういった風潮は、本当に好かない。

 

そして再逮捕へ...

八百長をしたということで逮捕された西川昌希だが、その後の調べで、今までに他の18レースでも八百長をしていたことが判明。今回の再逮捕では、親族である会社員「増川遵容疑者」も一緒に再逮捕された。

この八百長では、現金にして約3425万円を授受したと言われている。西川昌希選手が行った八百長行為は以下の2つ。

・西川昌希が1~3着に入らない3連単の舟券を増川容疑者が買った場合は4着以下になる
・西川昌希が2着か3着に入る舟券を買った場合は2着か3着になる

西川昌希の1レースあたりの報酬は「数十万円~数百万円」と言われており、愛知県と山口県で開催されたレースにおいては1日で八百長レースを2回行ったとされている。とくに酷いのは、18レース中10レースは競艇では最も有利とされている1号艇でありながら意図的に順位を下げるという大胆さである。西川昌希が勝つと思って1号艇に賭けた客はたまったものではない。

2人が八百長レースを始めたのは2016年頃とされており、増川容疑者の口座には約3年間で数億円規模の入金記録があったとされている。再逮捕という競艇界のイメージを悪くする報道がされると、競技運営団体である「日本モーターボート競走会(東京)」では、「この八百長事件の全容が早く解明されるよう、全面的に捜査に協力する。そして再発防止にも全力で取り組んでいく」という旨を伝えた。

そして2020年10月21日、名古屋地裁で西川昌希に対して判決が言い渡された。西川昌希は、執行猶予なしの懲役3年・追徴金3,725万円という重い実刑判決となった。求刑は懲役4年・追徴金3,725万円ということだったので、懲役刑は1年減刑された形となったが、共犯者の増川遵容疑者には、執行猶予5年付きの懲役3年・罰金1,100万円となり、こちらは西川昌希と違い求刑通りとなった。

 

引退の理由は国税調査?

2020年6月12日の中日新聞の記事によると、西川昌希が競艇選手から引退した本当の理由は「国税調査」によるものだったと本人から聞いたようだ。かいつまんで説明すると...

【賄賂側に名古屋国税局から強制調査が入ったから事件が表に出る前に引退した】

ということだった。この賄賂側とは、一緒に再逮捕された増川遵被告のことである。週刊誌などによって不倫が世間にバレる前に引退する芸能人のような感じだろうか。しかし、この記事を読んでいる限り西川昌希が本当に反省しているのか疑問に感じることも多かった。まず、「競艇選手としてルールを破ったこと自体は反省している」ということを話した。しかし、八百長をしたことに関しては以下のように述べている。

【人殺しに「何で人を殺したのか」と問い詰めたところで答えられない。それと同じだ。僕も「何で八百長したのか」と聞かれても答えられない】

裁判や他のメディアから色々聞かれて若干投げやりな感じもするが、八百長したこと自体については何も考えずにやっていたのだろうか。3月に行われた初公判においては、西川昌希の口座を調べたところ「1億8000万円」もの損失があったことが分かっている。競輪や競馬によってできた借金と思われているが、本人はこの借金が八百長レースをした動機ではないと語っている。

とくに印象に残った言動と言えば、競艇選手の目標であり成績上位20%にしか与えられないA1クラスでレースをしていたことについて「A1だから凄いと感じたことはない」と言ったことだろう。競艇に未練は無いのかもしれないが、プロとして活動していたのだから言葉を選んでほしかった。「ルールを破ったことは反省しているし、判決を受け入れて控訴するつもりもない」と言っているが、果たしてその真意はわからないものがある。

 

まさかの暴露本出版

しかし、そんな西川昌希が突如、暴露本を出版した。タイトルは『競艇と暴力団「八百長レーサー」の告白』とインパクトのあるもので、現在それなりに売り上げを伸ばしている。

タイトル:競艇と暴力団「八百長レーサー」の告白
著/文:西川昌希
発行元:宝島社
発売日:2020年11月2日
定価:1,600円

公営競技・ボートレース史上最大の八百長スキャンダルはなぜ起きたのか。名古屋地検特捜部に逮捕された選手本人が、赤裸々にその不正の全貌を明かす懺悔の書。暴力団組長の子として育てられた数奇な生い立ちと、天才的な選手としての資質、そして驚くべき巧妙な不正の手口、消えた5億円の行方、そして不祥事をもみ消そうとしたボート界の隠蔽体質。業界騒然の話題作。

タイトルからもくみ取れるように、その中身は、暴力団組長の子供として育てられたこと、巧妙な不正の手口、ボート界全体における隠蔽体質などなど気になるワードだらけ。暴力団とも結託していたのかも気になる。しかし、この出版を見る限り、やはり罪の意識があるようには到底思えない。やはり金のことしか頭にないのだろう。

しかし、競艇を知っている人間であれば、この事件の真相は誰でも気になるのが事実。結果手に取る。そして売れる。しかも、Amazonレビューでは星4.7と非常に評価が高く、文章は読みやすいと言われているため、さらにそれに拍車がかかっている。

 

◆本の内容(※ネタバレ注意)

最後に、簡単にだがこの中で語っていることを簡潔にまとめた。今後読みたいと思っている人は注意してください。

・まだ西川昌希元選手が幼い頃、両親が離婚してしまい母方の親戚「弘道会」に預けられ、図らずも「ヤクザの子供」として育つこととなった。組のシノギで自由な生活を送りワルのエリートとなった西川昌希元選手は、大きくなったら自分もヤクザとして生きていくものだと思っていた。

・育ての父が殺人事件で逮捕され、偶然目にしただけのボートレーサーの試験を受けた。まぐれで合格したものの、晴れて競艇選手として生活していくことが決まった。才能を開花し、色んなレースで賞を取るようになった。

・全盛期であれば年間2500万円以上もの賞金を稼いでいた。しかし、八百長を数回するだけで稼げる金額だったのだ。賞金には税金がかかるが、八百長報酬は無税という誘惑も強かった。

・子供の頃から「宵越しの銭は持たない」生活を送ってきたため金銭感覚がおかしかった。何より八百長のモチベーションになったのは「自分が思い描いた八百長の構図を演じ切った」ことへの充実感だった。

・八百長のやり方は複数あるが、西川昌希元選手が仕組んだ八百長には「高度なテクニックが必要」だった。すべての要素で困難なミッションだったがやり遂げた。だからこそ共犯者からの「アカデミー賞の演技やな」という言葉で気分を良くしてしまった。そしてより高度な八百長に手を染めてしまうのだ。

・裁判では事実と異なる証言もあったが、不正に加担したことは事実である。裁判官の心証を悪くしないためにも反論はしなかった。求刑は懲役4年、追徴金3725万円となっているが、実刑判決が下されても受け入れる覚悟はある。

・「今もボート界に八百長は存在している」と断言できる。なぜなら、西川昌希元選手が起こした不正行為には共犯選手が存在しているからだ。西川昌希元選手だけが知っている不正事実がある。何かされない限り公表するつもりはない。

・2019年9月、逮捕される3ヵ月前に西川昌希元選手はモーターボート競走会に「自首」をした。しかし、「一身上の都合」と引退理由を書かされ、西川昌希元選手が逮捕されるまで不正に関与していたという内容を隠蔽した。

・事件後、妻とも離婚して失うものはもう何もない。思う存分真実を伝え、それをファンの方々へのお詫びとしたい。

 

これ以外にも、増川遵被告との不正の始まりから詳しい内容まで記載されている。この本自体が売れることは個人的には許せないことだが、事実を多く知ってもらう、そして西川昌希という男がいかにどうしようもない男か、というのをわかってもらいたいことも事実であるので、気になった方はぜひ読んでみてもらいたい。

 

まとめ

・西川昌希元選手は、優勝経験12回や年間獲得賞金2000万円など優秀な競艇選手だった
・2019年7月2日に開催されたレースで八百長していたことが発覚して逮捕
・これまでに全18レースで八百長をしていたことが発覚して再逮捕された
・本当の引退理由は、逮捕される前に賄賂側に調査が入ったから
・暴露本が出版され、概ね高い評価を得ている

 

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